海外旅行で食物アレルギーをどう伝えるか
日本国内で食物アレルギーと付き合うのは、おおむね解決済みの問題です。使えるメーカーがわかっていて、真面目に対応してくれる店を知っていて、母語で聞けば母語で答えが返ってきます。海外に出ると、その三つが同時に消えます。読めない原材料表示を前にし、翻訳アプリ越しに質問し、しかも相手の頭の中にある「アレルギー」という言葉の意味が、こちらとまるで違うかもしれない。
このずれは、たいてい悪意ではありません。こちらが知りたい情報——ソースに何が入っているか、その油で直前に何を揚げたか——は、そもそも多くの厨房が答えられるように整えていない種類の情報だからです。以下は主治医と決めた対応方針の代わりにはなりません。その方針を、言葉の通じない場所でも成立させるための話です。
「ナッツ抜きで」だけでは足りない理由
アレルゲンの名前を言えば伝わったように感じますが、たいていは足りません。理由は四つあります。
カテゴリーは言語をまたぐと一致しません。 多くの言語で日常語の「ナッツ」はピーナッツを含みません(豆科なので)。「ナッツ抜き」と言われた厨房が、平然とピーナッツ油に手を伸ばすのはそのためです。逆もあります。ピーナッツだけを強調すると、カシューナッツやアーモンドはまったく除かれません。カテゴリーではなく、個別の食品名を挙げてください。
揚げ油は目に見えません。 揚げ油がメニューや表示に載ることはまずありませんが、実際にはピーナッツ油やごま油、ブレンド油であることが多く、しかも一つのフライヤーが厨房全体を賄っていることがあります。
コンタミネーションは別の質問です。 アレルゲンを使わずに作った料理でも、同じトングで盛り付け、同じまな板で切り、共用の鍋から取り分けているかもしれません。「これに X は入っていますか」と「これは X に触れた可能性がありますか」は別の質問で、重篤なアレルギーをカバーできるのは後者だけです。
ソースがすべてを隠します。 どの料理圏にも土台になる調味料があり、思いもよらない料理に顔を出します。予期しない反応の大半はここから出ます。
見落とされやすい隠れた原材料
| アレルゲン | どこに隠れているか |
|---|---|
| 魚 | 東南アジア各地のナンプラー、和食のだし、ウスターソース、シーザードレッシング、一部のピザや煮込み |
| 甲殻類・貝類 | 中華や広東料理のオイスターソース、タイやマレーのエビペースト、えびせん、魚介ベースのスープ |
| 小麦(グルテン) | 醤油(多くは小麦入り)、天ぷらなどの衣、ビール、とろみを付けたソースやグレービー、一部の加工肉 |
| ピーナッツ | 揚げ油と仕上げの油、サテなどのピーナッツソース、ベトナムのつけだれや薬味、焼き菓子やデザートの砕きピーナッツ |
| 木の実 | 欧州菓子のマジパンやヌガー、ジェノベーゼ、カレーや中東のソースのとろみ付けに使う挽いたナッツ |
| 乳製品 | 南アジアのカレーのギーや生クリーム、焼いた肉や野菜の仕上げのバター、焼き菓子、加工スナックのホエイ |
| 卵 | マヨネーズやアイオリ、生麺・即席麺、パスタ、パンや菓子に塗る艶出し、泡状の料理や一部のカクテル |
| ごま | 中東のディップやソースのタヒニ、韓国のナムルや和え衣、パンに練り込む・振りかけるごま |
| 大豆 | マリネ液、だし、代替肉、単独の材料としては書かれず背景の味付けとして使われる各種ソース |
法則ははっきりしています。リスクは、料理のうち名前が付かない部分に集中する。見出しの食材だけを問い詰めたなら、皿のいちばん安全なところを確認したことになります。
出発前に、紙に書いておく
いちばん効果があるのは、現地語で書いたアレルギーカードを持ち歩くことです。口頭の翻訳は途中で崩れますが、カードはそのまま厨房に渡せますし、何度渡しても同じ内容が伝わります。
機能するカードに入れるべき要素は、現地語で次の四つです。
- 反応する食品を、カテゴリーではなく個別に挙げること
- 好みや食事制限ではなく、重篤なアレルギーだと明示すること
- 同じ油で調理しないこと、同じ器具や調理面を使わないことのお願い
- 食べた場合に何が起きるか(病院が必要になることを含む)を一行で
保管場所は三か所に。紙で印刷、スマホの写真フォルダ、そしてロック画面かオフラインメモ。このスクリーンショットが思っている以上に効きます。翻訳アプリもクラウドメモもモバイル回線も、地下や離島や郊外では普通に落ちるからで、通信が必要なカードはカードとして機能しません。緊急時の薬と主治医の連絡先も、他人が読める形で書いて持ってください。
可能なら、現地語のネイティブに一度見てもらってください。「アレルギー」の機械翻訳はだいたい正確ですが、「コンタミネーション」の機械翻訳はしばしば怪しく、専門用語よりも「きれいな器具で、別の鍋で調理してください」のほうがはるかに正確に伝わります。
実際に効くひとこと
| 言うこと | なぜ効くか |
|---|---|
| 「これを食べると重症になり、病院に行くことになります」 | 多くの地域で「アレルギー」は「強い好き嫌い」として受け取られます。結果を描写すると、厨房が真剣に扱う話に変わります |
| 「これには何が入っていますか」 | 開いた質問。「魚は入っていますか」と聞くと、記憶頼りの楽観的な「はい/いいえ」が返ってきがちです |
| 「パッケージを見せてもらえますか」 | 誰かの記憶や翻訳ではなく、原材料表示そのものを目の前に置けます |
| 「何の油で揚げていますか」 | 油はもっとも多い隠れた原因で、こちらから聞かない限りまず話題になりません |
| 「きれいな鍋で作ってください」 | 具体的で物理的な依頼。抽象的な「汚染を避けて」より、厨房が実行できます |
| 「少量でも食べられません」 | 「少しなら大丈夫だろう」という、いちばんよくある誤解に直接効きます |
| 「ナンプラーやオイスターソース、だしは使っていますか」 | アレルゲン名を言うより、それを運んでくる具体的な調味料を挙げるほうが話が早い |
注文する前に聞いてください。料理が出てきてからでは、場の空気が「大丈夫ですよ」の方向に働き、確認されていない自信満々の答えが返ってくる確率が跳ね上がります。
表示が整っている国と、そうでない場所
制度は地域差が大きく、自分の国の基準を前提にしないほうが安全です。
西欧・北欧では、包装食品に加えて量り売りや外食でも、定められた十四品目のアレルゲン開示が食品法で義務付けられています。従業員も答えるよう訓練されており、質問すること自体がごく普通です。北米やオセアニアにも似た枠組みがありますが、対象品目リストは国ごとに異なります。
東アジアの多くでは、包装食品の表示制度は存在して機能しています。壁になるのは規制ではなく言語で、情報は印刷されているのに読めない、という形の困り方です。小さな専門店ほど、質問自体に慣れていないことがあります。
一方、世界のどこであれ屋台や家族経営の厨房、そして南アジアや東南アジアの多くでは、調理済み食品を対象にした表示制度がそもそも存在しないことがあります。材料はその朝の市場次第で変わり、ソースは誰も書き留めていないレシピで自家製され、作っている本人にも答えられない。これは特定の国への注意喚起ではなく、インフォーマルな食の経済がそう回っているという話で、ヨーロッパの市場の屋台にも同じことが当てはまります。制度が答えてくれない場所では、判断はこちら側の仕事です。実際には、ソースの多い複雑な料理より、材料が見えるシンプルな料理を選ぶことになります。
読めない表示とメニューをどう読むか
いちばん厄介な二つの場面——見慣れない文字のメニューと、コンビニで手に取ったお菓子の裏——は、同じ問題の別包装です。どちらにも答えは書いてあり、どちらも文字体系に鍵をかけられている。写真を撮って自分の言語で読み返すのがいちばん速く、包装食品では口頭で尋ねるより優れていることも多い。表示は規制に基づく記載ですが、口頭の答えは記憶だからです。ただし一次フィルターであって保証ではありません。わかるのは「表示されている内容」だけで、油と共用器具については別途聞く必要があります。
FAQ
アドレナリン自己注射薬は飛行機に持ち込めますか。 処方された自己注射薬は一般に機内持ち込みが認められており、預け荷物ではなく客室に持つのが標準的な助言です。処方内容がわかる包装のまま、処方箋や診断書とあわせて携行し、航空会社と渡航先の規則を事前に確認してください。特定の薬剤に制限がある国もあります。何を持って行くべきかを最終的に判断するのは、処方している医師です。
「大丈夫」と言われた料理で反応が出ました。どうすれば。 まず医療的な状況として扱い、医師と決めた緊急時対応に従ってください。様子を見るより受診が先です。落ち着いたら、その料理に実際に何が入っていたのかを可能な範囲で確かめておくと役に立ちます。答えはたいていスープか、ソースか、共用のフライヤーで、それがわかれば残りの旅程で何を聞くべきかが決まります。現地の救急番号と最寄りの病院は、必要になる前にスマホへ入れておいてください。
ベジタリアン表示やヴィーガン表示があれば乳と卵は入っていませんか。 ヴィーガン表示は原材料としての乳と卵を除きますが、それはレシピについての主張であって厨房についての主張ではないため、共用器具の可能性は残ります。ベジタリアン表示はどちらも除きません。実際、いくつかの料理圏ではベジタリアン表記の料理がバターやギー、生クリーム、卵で仕上げられるのが普通です。食のラベルとアレルゲンの安全は別の仕組みで、健康を前提に設計されているのは片方だけです。